非歯原性歯痛の分類 後編

神経障害性歯痛

口腔領域の痛覚を司る神経が、口腔ではなく大元の部分で障害されて痛みを感じるもの。
三叉神経が、頭蓋骨内で血管に圧迫されておこる三叉神経痛などが代表的。
他にも、抜歯の際の神経の損傷や、帯状疱疹ウイルスによる神経の損傷などもこれにあたる。

特に帯状疱疹後神経痛は、通常の消炎鎮痛剤は奏功せず、ブロック注射による神経伝達の遮断や、プレガバリン(代表薬リリカ)など、神経の伝達をシャットアウトする治療となる。

三叉神経痛は、根本的解決としては、頭蓋骨内部での神経圧迫している血管の走行を手術で変える。
重度でなければ、カルバマゼピンの内服で一定の寛解が得られる。

いずれにせよ、神経障害性の歯痛の治療は、きれいさっぱり治るというのが難しく、患者泣かせである。

神経血管性歯痛

神経血管性頭痛として、片頭痛や群発頭痛などがある。
これらの発症のメカニズムは不明。
その一症状として、三叉神経領域の疼痛がある場合がある。
下手に歯科治療すると、それが引き金になり、片頭痛の疼痛部位が変化する症例が報告されている。
これらの患者の約2割に、抜歯後幻歯痛が現れる。
歯科では手に負えないので、片頭痛の既往には非常に注意を要する。

上顎洞性歯痛

上顎洞は、鼻の周りに存在する骨の空洞であり、鼻腔とコメ粒ほどの穴で交通している。
この空洞が炎症をおこすことを、上顎洞炎(副鼻腔炎)、昔でいうところの蓄のう症という。
この副鼻腔底が、歯科と耳鼻科の境界線、非常に近接しているため、症状がまたがる場合がある。

歯が原因の上顎洞炎は以前書いたことがあったが(詳しくはこちら)、逆もまた真なり。
上顎洞炎によって、健全な歯が痛みを感じる場合は2~4割にものぼる。
この痛みは、上顎洞炎の治療を適切におこなうことで解消することができる。

口腔と鼻腔は極めて近い。上顎洞性の歯痛は根本的な寛解が得やすい
副鼻腔に突き出した歯根

心臓性歯痛

狭心症などの虚血性心疾患は、歯のみならず、顔面や左の肩や腕に痛みが出る場合がある。
迷走神経を介した関連痛であり、稀に歯のみに痛みを感じる場合がある。
また、心動脈の解離(血管がはがれ裂けること)でも同じような症状が報告されている。
歯痛と同時に、顔面や左上半身の症状が出た場合は、迅速な循環器科への受診が必要となる。

精神疾患または心理社会的要因による歯痛

精神障害や心理障害によって歯痛が発現することがある。
この歯痛の特徴は、左右に痛みがまたがることがあること。
痛みの形態は非定型的であることが多い。

突発性歯痛・その他の様々な疾患により生じる歯痛

今まで取り上げた歯痛以外にも、原因がわからない歯痛や、全身疾患に関連して機序が明らかでない歯痛が発生する場合がある。
これらの歯痛では、原因がはっきりしないまま歯科治療を受け、効果のない治療となる場合が多い。
全身疾患の既往を把握していても、その関連痛であることが明確になることはまずないといってよい。

総論

非歯原性歯痛の治療は、原因の把握が難しく、主訴が解消しないこともままある。
最初の回にあげた症例のように、医療機関のはしごになってしまうことも、少なくはない。
私は全身疾患に割合精通している方ではあるが、それでも分からなかったことは多い。

なぜ、このような非歯原性歯痛の研究が進まないのかというのには、保険制度に問題があるためだ。
仮に歯科医師が原因となる疾患を特定したとしても、一文にもならないのだ。
もしこの疼痛のスペシャリストがいたとしたら、そのような患者が押し寄せ、たちまち採算不能でつぶれてしまうだろう。
保険制度の改革が望ましい。

歯が原因でない歯の痛み 完